2026/09/21 08:34
「寝る前の一杯があると眠れる」——そう言う人は多い。私自身、20代の頃は帰宅後にビールを1本開けてから寝るのが習慣だった。ところが30代後半になって、朝の目覚めが妙に重い日が続いた。よく考えたら、飲んだ日ほど夜中に一度目が覚めている。同じような経験をしている人は、たぶん少なくない。
今回は、アルコールと睡眠の関係を、生理学的なメカニズムから整理してみる。
入眠は早くなる。ただし後半が崩れる
アルコール(エタノール)には中枢神経を抑制する作用があり、飲むと眠気を感じやすくなる。これは事実だ。だから「寝酒は入眠に効く」というのは間違いではない。
問題は後半。摂取したアルコールは肝臓でアセトアルデヒドに代謝される。このアセトアルデヒドが厄介で、交感神経を刺激する作用があるとされている。心拍が上がり、体温が上がり、発汗する。つまり体が「起きる方向」に切り替わる。
入眠から3〜4時間後、ちょうどアセトアルデヒドの濃度がピークに近づくタイミングで、中途覚醒が起きやすくなる。飲んで寝た日の午前3時ごろにパチッと目が覚める、あの現象の正体はこれだ。
レム睡眠が削られる
睡眠には浅い眠り(レム)と深い眠り(ノンレム)があり、90分周期で入れ替わる。アルコールは前半のノンレム睡眠を深くする一方で、後半のレム睡眠を抑制することが知られている。
レム睡眠は記憶の整理や感情の処理に関わるとされていて、ここが削られると翌日の頭の重さや気分の不安定さにつながる、と考えられている。私が朝起きて「寝たはずなのに疲れが取れない」と感じていたのは、たぶんこれ。
トイレで目が覚める理由
アルコールには利尿作用がある。抗利尿ホルモン(バソプレシン)の分泌を抑えるためで、飲んだ量以上に尿として出ていく。夜中にトイレで起きるのは意志の問題ではなく、ホルモンの話だ。
ついでに脱水も進む。朝起きたときの喉の渇きと軽い頭痛は、この延長線上にある。
いびきと無呼吸のリスク
アルコールは骨格筋を弛緩させる。これが上気道の筋肉にも及ぶので、舌根が落ち込みやすくなり、いびきや睡眠時無呼吸が悪化しやすい。普段はいびきをかかない人でも、飲んだ日だけパートナーから指摘される、というのはよくある話だ。
もともと無呼吸の傾向がある人にとっては、寝酒はかなりリスクが高い習慣になる。
「適量」と「何時間前まで」の目安
厚生労働省は、節度ある適度な飲酒として1日平均で純アルコール約20g程度を目安としている。純アルコール量(g)は「飲酒量(mL)×度数(%)/100×0.8」で計算できる。
ざっくり20gは、ビール中瓶1本(500mL・度数5%)、日本酒1合(180mL・度数15%)、ワイングラス2杯弱くらい。ただしこれは「健康リスクを比較的抑えられる目安」であって、「睡眠に影響しない量」ではない。
睡眠のことだけを考えるなら、就寝の3〜4時間前までに飲み終えて、アルコールが体からほぼ抜けている状態で布団に入るのが望ましい、とされている。体重60kgの人で20g前後なら、代謝に約3〜4時間かかる計算になる。
ここで注意したいのは個人差。日本人の約4割はアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)の活性が低い、または欠損しているとされている。同じ量を飲んでも、アセトアルデヒドが体内に残る時間は人によってかなり違う。飲むと顔が赤くなるタイプの人は、量も時間もさらに保守的に見た方がいい。女性や高齢者も一般に代謝が遅い傾向がある。
耐性が育つと量が増える
寝酒を続けていると、同じ量では眠くならなくなる。耐性がつくからだ。すると自然と量が増えていく。これがアルコール依存の入り口になり得る、というのは各種のガイドラインが繰り返し警告している点だ。
「眠るために飲む」が定着してしまうと、飲まないと眠れない体になっていく。ここは本当に地味に怖い。
置き換えられるものから置き換える
じゃあどうするか。寝る前の儀式を全部やめる必要はないと思う。私の場合は、平日はノンアルコールビールに切り替えて、週末だけ普通に飲む——という配分に落ち着いた。完全禁酒より続けやすい。
ほかにも、ぬるめの湯船に15分浸かる、寝る2時間前に軽くストレッチをする、カフェインを14時以降入れない、といった地味な習慣の方が、睡眠の質には効いてる気がしている。
アルコールとの付き合い方は、ゼロか百かではなく、量と時間と頻度の三つで調整するもの。今夜の一杯を、少しだけ早めに、少しだけ軽くしてみるところから始められる。
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