2026/09/20 08:33
「軽く一杯やると寝つきがいい」。この感覚、たぶん本当だ。ただし寝つきだけの話。眠りの後半で何が起きているかを知ると、寝酒を毎晩の習慣にするかどうか、考え直したくなる。
私自身、20代の頃は寝る前にビールを1本開けるのが当たり前だった。3時ごろに目が覚めてスマホを見る、そのまま寝つけない、朝ぼんやりする——今思えば全部つながっていた。この記事では、寝酒が睡眠に何をしているのかを、厚生労働省 e-ヘルスネットや国立精神・神経医療研究センターの情報をもとに整理する。
寝つきは良くなる、でも後半が崩れる
アルコール(エタノール)には中枢神経を抑える働きがあり、GABA-A受容体を介して鎮静的に作用する。だから寝つきは早くなる。ここまではその通り。
問題はその先だ。血中のアルコール濃度が下がってくる睡眠後半、今度は覚醒系が優位になる二相性の反応が起きると報告されている。前半は深く落ちるが、後半で浮いてくる。トータルで見ると眠りは分断されていて、朝の回復感が薄い。
アセトアルデヒドが体を起こしにいく
飲んだアルコールは肝臓でアルコール脱水素酵素(ADH)によってアセトアルデヒドに変わり、次にアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)で酢酸へ分解される。このアセトアルデヒドという物質、交感神経を刺激する。心拍が上がり、汗をかき、体が「活動モード」に傾く。
眠っている最中に交感神経が優位になる。それはつまり、体は寝ようとしているのに、代謝の副産物が起こしにかかっている状態だ。日本人のおよそ4割はALDH2の活性が低い体質と言われていて、分解に時間がかかる。飲んだ翌朝がやたら重い人、これに該当している可能性がある。
REM睡眠が削られる
アルコールは睡眠前半のREM睡眠を抑制することが知られている。REMは記憶の整理や感情の処理に関わるとされる眠りで、ここが削られると、翌日の集中力や気分に響きやすい。
そして後半、抑えられていた分のREMがまとめて出てくる(リバウンド)。夢を妙にたくさん見た朝、それだ。夢の内容が生々しくて疲れる、という声もこの反動と関係する。
いびき・無呼吸のリスクが上がる
アルコールには上気道の筋肉を弛緩させる作用がある。要するに、のど周りがゆるんで気道が狭くなる。普段はいびきをかかない人でも、飲んだ夜だけ盛大にかく——パートナーからの証言でこれに気づいた知人がいる。
もともと睡眠時無呼吸症候群(SAS)の傾向がある人は、飲酒で症状が悪化しやすい。無呼吸は本人が気づきにくいが、酸素が繰り返し不足する状態は循環器にも負担をかける。飲んだ夜だけ朝の頭痛がひどい、日中の眠気が強い、という自覚があるなら一度専門医の相談を。
トイレで起きる問題
アルコールには抗利尿ホルモン(バソプレシン)の分泌を抑える作用があり、尿量が増える。飲んで寝ると夜中にトイレで起きる、あれはこの利尿作用が主犯だ。同時に脱水も進むので、口の渇きで目が覚めるパターンも重なる。
眠りが浅くなる要因が、代謝・呼吸・排尿と3方向から同時に押し寄せてくる。寝酒で「よく眠れた気がしない」のは、感覚ではなく仕組みの話だった。
飲むなら、いつ・どれくらい
純アルコール量(g)は、飲酒量(ml)×度数(%)÷100×0.8で計算できる。500mlの5%ビールなら500×0.05×0.8=20g。厚労省の情報では、生活習慣病リスクを高める量として男性40g・女性20g以上が目安とされている。
タイミングについては、就寝の3〜4時間前までに飲み終えて、体からアルコールがある程度抜けた状態で眠りにつくのが望ましい、という考え方が一般的だ。ただし個人差が大きく、ALDH2活性が低い人はもっと余裕を見た方がいい。
もうひとつ大事な話。「眠れないから飲む」を習慣化するのは避けたい。耐性がついて量が増える、量が増えるとさらに眠りが浅くなる、という悪循環に入りやすい。睡眠薬とアルコールの併用も、呼吸抑制などのリスクがあるため厚労省が注意を促している。
切り替えるなら少しずつ
毎晩の寝酒をやめる、というのは意外とハードルが高い。週に2日、飲まない日を作る。それができたら3日にする。飲む日は就寝の3時間前までに切り上げて、水を1杯挟む。私はこの順番で減らしていって、半年で「飲まないと寝られない」感覚は消えた。
眠りの質を左右する要素は飲酒だけじゃない。カフェイン、寝室の温度、スマホの光、翌日の予定への不安。どれかひとつだけ整えても劇的には変わらないが、複数を少しずつ動かすと確実に変わる。寝酒を見直すのは、その入り口としてわりと有効だ、と自分の経験からは思っている。
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